こんにちは!前健です。
今回、縁あって時代小説家である砂原浩太朗さんの講演会に参上つかまつったという貴重な体験をしたのでお伝えします!
砂原浩太朗さんとは?
1969年生まれ、兵庫県神戸市出身。
2016年、「いのちがけ」で第2回決戦!小説大賞を受賞しデビュー。
2021年、『高瀬庄左衛門御留書』が大4回山本周五郎賞、第165回直木賞候補となる。また同作で第9回野村胡堂文学賞、第15回舟橋聖一文学賞、第11回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞、「本の雑誌」同年上半期ベスト10で第1位に選出。
2022年、『黛家の兄弟』で第35回山本周五郎賞受賞。
(講演会パンフレットより引用抜粋)
輝かしい受賞歴を持ち、時代小説界において確実に良質な作品をものにする先生です。
寒いなか、茨城県という決して文化的に華やいではいない所までお越しいただき大変嬉しかったですね。
砂原浩太朗さんの「私の履歴書」
講演の前半は、砂原浩太朗さんが時代小説家になるまでの人生をご自身が振り返り語っていくというスタイルでした。
小説との出会い
少年時代は神戸市の中心街で育ったため、書店が近所にたくさんあり、毎日入り浸っていたとのこと。
最初は漫画を中心に読んでおられた砂原さんですが、小学4年生のときに星新一の『ボッコちゃん』を読んで夢中に。
それ以来、小説というエンタメが最上のものになったそうです。
ミステリー作家になりたいと思うも、アガサ・クリスティの『アクロイド殺人事件』を読んで、それまでミステリーを「トリックがすべて」と考えていた砂原少年はとてつもない衝撃を受けたそうです。
「こんなものは書けない…!」と諦めたそうです。
砂原さんは「名作の罪」とおっしゃっていました。
しかし砂原さんは、小説家をつねに目指し続けていました。
「歴史は面白い」
小学6年生になるとテレビの大河ドラマ『おんな太閤記』を熱心に観るようになった砂原さんは、「歴史って面白いな」と思うようになります。
ちょうど学校で歴史を教わり始める時期ということも相まって、歴史というものが身近になっていったそうです。
中学生になる前の春休み、書店で漫画『三国志』(横山光輝)を1日で14冊一気読み。すっかり虜になり、その後、全巻を購入するに至ります。
それから吉川英治、池波正太郎といった小説家の作品や雑誌「歴史読本」を隅から隅まで読み尽くすという勢い。
こういった熱中により「歴史の全体像をつかむことができ、それは今に活きています」とのことです。
そしてなんといっても、今に至るまで私淑する藤沢周平の作品に出会ったことは決定的だったようです。
「藤沢先生は特別な存在で、だいたい毎年お墓参りをしています」とおっしゃっていました。
苦難を乗り越えて時代小説家に
大学卒業後、出版社の編集者になった砂原さん。
「とにかく小説に関わる仕事がしたかった」ということで、もちろん編集者としての仕事には真剣に取り組みますが、小説家として身を立てる情熱は常に持ち続けていました。
たくさんの有名作家を担当して経験を積み、文献の探し方など時代小説家としてのノウハウも吸収しながら、砂原さんは作家への道について考え続けます。
「編集の仕事は、どう作品を当てるか」
「しかし、作家は『書きたい』という気持ちが原動力なのでは」
ということを考えていたとき、とある新人作家にアイディアを出していた砂原さんは、「これは自分が書かねばいかんだろう…」という思いに至り、その後は出版社を辞し、フリーの編集者・ライター・校正者としての活動を始めます。
ここで砂原さんの誤算が生じました。
「ありがたいことではあるのですが、仕事がたくさん来て、会社員時代よりも忙しくなってしまいました」と述懐。
朝9時から夜中の0時まで働かねばならなくなり「何のために会社を辞めたんだろう?」という事態になってしまったそうです。
そして、フリー生活10年めに、起死回生のつもりで執筆した小説作品は落選。
そこから5年ほど、砂原さんいわく「暗黒時代」という厳しい状態で過ごすことになるのでした。
「落ちるところまで落ちたな…」というマイナスの感情に襲われるも、「このまま終わっていいのか?」と考え直します。
時間に関しても、足りないならば強制的に作るという策に出た砂原さんは、カルチャーセンターの小説講座に通って課題を提出することを自身に課します。
そこで「やっぱり書くのは楽しい」と再認識した砂原さんは、「課題をこなすだけではなく投稿をしよう」という意識になり「これを書かなければ自分は終わる」と決死の覚悟で投稿した時代小説『いのちがけ』で、見事に激戦!小説大賞を受賞して積年の念願を果たすに至ったのでした。
まさに、いのちがけで掴んだプロ小説家としてのキャリアの始まりですね!
時代小説の魅力
時代小説はなぜ広く好まれるのか? 多くの人から求められるのか? という砂原さんのご意見は大きく6つほど挙げられました。
現代を書くことに比べると制約が少ない
例えば、現代小説のなかで人を斬ってしまったら、必ず警察の捜査が入ってしまいます。
そうなると、どうしてもミステリー的な要素が出てくる。
本来のテーマを書くうえで不要な要素です。
時代小説の場合は、そういった制約が少ないという側面があります。
「人間が美しいままで存在している、報われる」といった理想郷の表現
遠い時代である江戸時代などの舞台を通じて、現代社会が舞台だと無理があるかもしれない理想的な人間像・社会像を読者は楽しむことができます。
古びない
例に出すと、1980年代が舞台の小説を読むと、さすがに古さを感じてしまうときがあります。
その古さは「違和感」と言い換えることもできるでしょう。
時代小説は遠い過去の話であるのが前提なので、古びるということはさほどありません。
美しい言葉
美しい言葉を使って表現できます。特にセリフ。
現代小説の場合、登場人物のセリフが折り目正しく丁寧すぎると少しおかしいのでは、という疑問が出てきます。
時代小説は、折り目正しい美しいセリフを使っても何ら違和感がありません。
地の文も端正なものを作ることができるということです。
美しい日本の姿や美しい自然の描写
砂原さんは風景描写にかなりウェイトを置いています。
もともと都市部で育ったので、自然をより意識するのではないかと思っています、とのことです。
高度に進んでしまった現代人の心を憩わせる
高度に進んだ現代社会にみんな疲れてしまっているのではないか、と思っているそうです。
そういうときに、まだ世がガチガチに固まっていない時代を舞台にした小説を読むと心を憩わせられる、というのも時代小説の魅力なのではと。
とにかく時代小説は可能性と魅力にあふれたジャンルだと考えておられます。
私も同感です。
文章へのこだわり、そして登場人物に託すこと
その他、作品の設定に関する、聴衆の関心事にもサービスいっぱいでお答えいただいたりと、さすがはエンターテイナーの砂原さんですがそこら辺の詳細はさておき…。
文章にはとりわけ気を配る
砂原さんは「文章の推敲には心血を注いでいる」とおっしゃり、「文章にファンのつく作家になりたい」という展望を語られました。
「読んでいて突っかからずスラスラ読めるけど、余韻が残るような文章を目指しています」とも。
目指すといっても、すでに砂原さんは極上の文章を書かれていると私は思っているのですが、ご本人はさらに高みを目指しておられます。頭が下がる思いです。
砂原浩太朗さんが登場人物に託すこと
時代小説家・砂原浩太朗さんは、ご自身の作品に登場する人物たちには「成長をさせていきたい」とのこと。
人間はみんなが成功できるわけではありませんが、確かに成長ならば老いも若きも(若い人は特に)可能だと私も思っています。
真摯に作品と読者に向き合う砂原浩太朗さん
作品同様、作者の砂原さんも折り目正しい真摯な紳士でした。
何かと生活様式や価値観が移ろいやすい現代社会にあって、砂原浩太朗さんは時代小説家としての情熱・技術・矜恃を長らく持ち続けている「令和のサムライ」と見受けられました。
素敵な講演会に足を運ぶことができて本当に良かったです!
砂原浩太朗さんのさらなるご活躍が楽しみです!!