こんにちは。前健です。
2023年11月22日に、12月30日テレビ放送予定のTBS『輝く!レコード大賞』の大賞候補となる優秀作品賞として、アーティスト10組の楽曲が発表されました。
優秀作品賞
・『オトナブルー』
新しい学校のリーダーズ
・『ケセラセラ』Mrs. GREEN APPLE
・『サマータイムシンデレラ』緑黄色社会
・『唱』Ado
・『だってめぐり逢えたんだ』純烈
・『Ditto』NewJeans
・『Trigger』JO1
・『NIGHT DANCER』imase
・『花わずらい』市川由紀乃
・『Mainstream』BE:FIRST
(「輝く!日本レコード大賞」HPより引用)
これを受けてネット上では批判の声が多く上がる事態に。
一番多い意見と見受けられるのは「YOASOBIの『アイドル』が候補曲にない!」というもの。
YOASOBIの『アイドル』は今年4月に配信リリースされ、同月に放送開始した人気テレビアニメ『【推しの子】』のオープニングテーマに。6月には米ビルボード・グローバル・チャートで1位を獲得し、YouTubeで公開されている公式MVはすでに3.8億回再生を突破しているという2023年を代表する世界的ヒット曲ですね。
一応「作曲賞」は受賞しましたが、ファンとしては大賞の候補にさえならないとはなぜ?という気持ちになるのは分からなくもありません。
他にも様々な疑問点を持つ人がおり今さらながら「レコード大賞はオワコンだ」との声もかなり目にしました。
しかし。
レコード大賞の審査基準がおかしくなったのは本当に最近になってからか?という私の思いは膨らむ一方となり、今回の調査・分析の結果をここで申し述べます。
1.そもそもレコード大賞の選考基準は?
レコード大賞の選考基準は下記のとおりです。
日本レコード大賞
対象年度に発売されたすべての邦楽シングルの中で「作曲、編曲、作詩を通じて芸術性、独創性、企画性が顕著な『作品』」「優れた歌唱によって活かされた『作品』」「大衆の強い支持を得た上、その年度を強く反映・代表したと認められた『作品』」の3点に該当する『1作品』に贈る。そのため、賞の授与は、作詞者・作曲者・編曲者・音楽プロデューサー・所属プロダクション・所属レコード会社・および作品の歌唱者が対象になる。審査対象は、「優秀作品賞」に選ばれた『作品』とする。以上のように日本レコード大賞は決して歌手だけが受賞するものではない。
対象年度以前に発売された作品でも、「対象年度に顕著な実績を上げた作品」であれば選考対象とされる。(Wikipediaより引用)
レコード大賞の選考基準は大きく3つあるということですね。
・「楽曲の芸術性・独創性・企画性」
・「楽曲においての優れた歌唱」
・「楽曲の大衆性、その年度を反映・代表するとみとめられたもの」
楽曲の芸術性・独創性・企画性や優れた歌唱などは、受け手それぞれによって感じ方は異なるものです。ある人にとっては名曲・神曲であっても、別の人にとっては何ら心に響かない…といったケースはいつの時代でもあること。なので、今回は触れないことにします。
やはり最後の、楽曲の大衆性(売上など)がハッキリ分かりやすいですし、視聴者の多くがレコード大賞に不満を持つのもこの点でしょう。実際、YOASOBI『アイドル』が候補にならないことについての問題は完全にこれです。
それでは、過去の大賞作品がこの基準を十分満たしていたのか?ということをメインに、各年度の受賞作品と売上ランキングを比較分析していきましょう。
その前に、過去64回の大賞作品をざっとご覧ください。
2.歴代大賞作品を見てみる
歴代レコード大賞
第1回 1959年 (昭和34年) 「黒い花びら」水原弘
第2回 1960年 (昭和35年) 「誰よりも君を愛す」松尾和子/和田弘とマヒナスターズ
第3回 1961年 (昭和36年) 「君恋し」フランク永井
第4回 1962年 (昭和37年) 「いつでも夢を」橋幸夫/吉永小百合
第5回 1963年 (昭和38年) 「こんにちは赤ちゃん 」梓みちよ
第6回 1964年 (昭和39年) 「愛と死をみつめて」青山和子
第7回 1965年 (昭和40年) 「柔」美空ひばり
第8回 1966年 (昭和41年) 「霧氷」橋幸夫
第9回 1967年 (昭和42年) 「ブルー・シャトウ」ジャッキー吉川とブルー・コメッツ
第10回 1968年 (昭和43年) 「天使の誘惑」黛ジュン
第11回 1969年 (昭和44年) 「いいじゃないの幸せならば」佐良直美
第12回 1970年 (昭和45年) 「今日でお別れ」菅原洋一
第13回 1971年 (昭和46年) 「また逢う日まで」尾崎紀世彦
第14回 1972年 (昭和47年) 「喝采」ちあきなおみ
第15回 1973年 (昭和48年) 「夜空」五木ひろし
第16回 1974年 (昭和49年) 「襟裳岬」森進一
第17回 1975年 (昭和50年) 「シクラメンのかほり」布施明
第18回 1976年 (昭和51年) 「北の宿から」都はるみ
第19回 1977年 (昭和52年) 「勝手にしやがれ」沢田研二
第20回 1978年 (昭和53年) 「UFO」ピンク・レディー
第21回 1979年 (昭和54年) 「魅せられて」ジュディ・オング
第22回 1980年 (昭和55年) 「雨の慕情」八代亜紀
第23回 1981年 (昭和56年) 「ルビーの指環」寺尾聰
第24回 1982年 (昭和57年) 「北酒場」細川たかし
第25回 1983年 (昭和58年) 「矢切の渡し」細川たかし
第26回 1984年 (昭和59年) 「長良川艶歌」五木ひろし
第27回 1985年 (昭和60年) 「ミ・アモーレ (Meu amor é…)」中森明菜
第28回 1986年 (昭和61年) 「DESIRE」中森明菜
第29回 1987年 (昭和62年) 「愚か者」近藤真彦
第30回 1988年 (昭和63年) 「パラダイス銀河」光GENJI
第31回 1989年 (平成元年) 「淋しい熱帯魚」Wink
第32回 1990年 (平成2年) 「恋唄綴り」堀内孝雄
「おどるポンポコリン」B.B.クィーンズ
第33回 1991年 (平成3年) 「北の大地」北島三郎
「愛は勝つ」KAN
第34回 1992年 (平成4年) 「白い海峡」大月みやこ
「君がいるだけで」米米CLUB
第35回 1993年 (平成5年) 「無言坂」香西かおり
第36回 1994年 (平成6年) 「innocent world」Mr.Children
第37回 1995年 (平成7年) 「Overnight Sensation〜時代はあなたに委ねてる〜」trf
第38回 1996年 (平成8年) 「Don't wanna cry」安室奈美恵
第39回 1997年 (平成9年) 「CAN YOU CELEBRATE?」安室奈美恵
第40回 1998年 (平成10年) 「wanna Be A Dreammaker」globe
第41回 1999年 (平成11年) 「Winter, again」GLAY
第42回 2000年 (平成12年) 「TSUNAMI」サザンオールスターズ
第43回 2001年 (平成13年) 「Dearest」浜崎あゆみ
第44回 2002年 (平成14年) 「Voyage」浜崎あゆみ
第45回 2003年 (平成15年) 「No way to say」浜崎あゆみ
第46回 2004年 (平成16年) 「Sign」Mr.Children
第47回 2005年 (平成17年) 「Butterfly」倖田來未
第48回 2006年 (平成18年) 「一剣」氷川きよし
第49回 2007年 (平成19年) 「蕾 (つぼみ)」コブクロ
第50回 2008年 (平成20年) 「Ti Amo」EXILE
第51回 2009年 (平成21年) 「Someday」EXILE
第52回 2010年 (平成22年) 「I Wish For You」EXILE
第53回 2011年 (平成23年) 「フライングゲット」AKB48
第54回 2012年 (平成24年) 「真夏のSounds good !」AKB48
第55回 2013年 (平成25年) 「EXILEPRIDE〜こんな世界を愛するため〜」EXILE
第56回 2014年 (平成26年) 「R.Y.U.S.E.I.」三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE
第57回 2015年 (平成27年) 「Unfair World」三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE
第58回 2016年 (平成28年) 「あなたの好きなところ」西野カナ
第59回 2017年 (平成29年) 「インフルエンサー」乃木坂46
第60回 2018年 (平成30年) 「シンクロニシティ」乃木坂46
第61回 2019年 (令和元年) 「パプリカ」Foorin
第62回 2020年 (令和2年) 「炎」LiSA
第63回 2021年 (令和3年) CITRUS/Da-iCE
第64回 2022年 (令和4年) Habit/SEKAI NO OWARI(「輝く!日本レコード大賞」HPより引用)
さすがに64年の歴史ゆえか「あー知ってる。名曲!」と感じる楽曲から「何だこれ?聴いたことすらない…」とポカンとしてしまう楽曲まであるかと思いますが、そればかりは仕方がないことですね。
3.各年度の大賞作品と売上ランキングを比較・分析(1960~70年代)
(注・第三者(オリコン)が計測する売上ランキングの発表を日本でおこなうようになったのは1968年からのことです。よって、それ以前の大賞作品がどれくらい大衆性があったかを客観的に判断することは大変困難であり危険です。この記事ではレコ大第10回の1968年から考察をします。ご了承ください)
オリコンランキングが本当に完全に公平なものなのかどうかの問題はまた後の機会に…。
1968年
大賞 『天使の誘惑』黛ジュン
オリコンシングル年間売上ランキング1968年
順位 CDタイトル アーティスト 発売日 年間売上(万枚)
1 星影のワルツ 千昌夫 1966/03/24 159.6
2 帰って来たヨッパライ ザ・フォーク・クルセダーズ 1967/12/25 131.2
3 恋の季節 ピンキーとキラーズ 1968/07/20 121.6
4 小樽のひとよ 鶴岡雅義と東京ロマンチカ 1967/09/25 82.4
5 恋のしずく 伊東ゆかり 1968/01/20 76.9
6 花の首飾り /銀河のロマンス ザ・タイガース 1968/03/15 67.6
7 サウンド・オブ・サイレンス サイモン&ガーファンクル 1968/06/15 58.3
8 ゆうべの秘密 小川知子 1968/02/01 52.9
9 マサチューセッツ ビー・ジーズ 1967/12/25 51.7
10 シーシーシー ザ・タイガース 1968/07/05 50.7
・大賞受賞曲の『天使の誘惑』は年間ランキング18位で売上枚数45.5万枚。
千昌夫やザ・フォーク・クルセダーズ、そして不滅の記録であろう17週連続1位を記録したピンキーとキラーズ『恋の季節』の特大ヒットを差し置いて大賞に輝いたのは、黛ジュンの『天使の誘惑』。ただ、大ヒットを飛ばした上位三者はいずれも新人であり、大賞を与えるのは早いという判断が審査側にあったはずだ。
『天使の誘惑』は、黛ジュン主演の受賞曲同名映画も公開されており、この大賞はギリギリ許容できる範囲ではなかろうか。
1969年
大賞 『いいじゃないの幸せならば』佐良直美
オリコンシングル年間売上ランキング1969年
順位 CDタイトル アーティスト 発売日 年間売上(万枚)
1 夜明けのスキャット 由紀さおり 1969/03/10 109.0
2 港町ブルース 森進一 1969/04/15 102.3
3 ブルーライト・ヨコハマ いしだあゆみ 1968/12/25 100.3
4 恋の季節 ピンキーとキラーズ 1968/07/20 86.0
5 黒ネコのタンゴ 皆川おさむ 1969/10/05 82.0
6 禁じられた恋 森山良子 1969/03/25 78.7
7 池袋の夜 青江三奈 1969/07/01 72.2
8 長崎は今日も雨だった 内山田洋とクールファイブ 1969/02/01 68.6
9 時には母のない子のように カルメン・マキ 1969/02/21 62.1
10 長崎ブルース 青江三奈 1968/07/05 58.7
・大賞受賞曲の『いいじゃないの幸せならば』は年間ランキング22位で売上枚数35.6万枚。
大物揃いのランキング上位者を差し置いて佐良直美が大賞受賞。世相としては空前の経済成長を続けていたが、受賞曲の調子は暗い。ともあれ実力派歌手・佐良による年間ランキング22位作品ならば、これも許容範囲内ではないだろうか。
1970年
大賞 『今日でお別れ』菅原洋一
オリコンシングル年間売上ランキング1970年
順位 CDタイトル アーティスト 発売日 年間売上(万枚)
1 黒ネコのタンゴ 皆川おさむ 1969/10/05 141.4
2 ドリフのズンドコ節 ザ・ドリフターズ 1969/11/01 78.2
3 圭子の夢は夜ひらく 藤圭子 1970/04/25 76.4
4 女のブルース 藤圭子 1970/02/05 74.8
5 逢わずに愛して 内山田洋とクールファイブ 1969/12/05 69.8
6 手紙 由紀さおり 1970/07/05 65.5
7 愛は傷つきやすく ヒデとロザンナ 1970/05/25 65.5
8 今日でお別れ 菅原洋一 1969/12/25 60.6
9 ヴィーナス ザ・ショッキング・ブルー 1970/02/20 55.1
10 京都の恋 渚ゆう子 1970/05/25 53.9
初めて年間ランキング10位以内に食い込んだ楽曲がレコード大賞受賞。ランキング1位の皆川おさむは当時7歳であり、一世を風靡していた藤圭子もまだ新人。菅原洋一の受賞はまずまず妥当と言ってもいいだろう。
1971年
大賞 『また逢う日まで』尾崎紀世彦
オリコンシングル年間売上ランキング1971年
順位 CDタイトル アーティスト 発売日 年間売上(万枚)
1 わたしの城下町 小柳ルミ子 1971/04/25 110.3
2 知床旅情 /西武門哀歌 加藤登紀子 1970/11/01 102.7
3 また逢う日まで 尾崎紀世彦 1971/03/05 92.8
4 傷だらけの人生 鶴田浩二 1970/12/25 77.8
5 ナオミの夢 ヘドバとダビデ 1971/01/25 66.6
6 よこはま・たそがれ 五木ひろし 1971/03/01 60.5
7 花嫁 はしだのりひことクライマックス 1971/01/10 60.5
8 雨のバラード 湯原昌幸 1971/04/01 55.4
9 望郷 森進一 1970/12/25 54.4
10 さらば恋人 堺正章 1971/05/01 52.8
文句なしの大賞受賞と言えよう。堂々の年間ランキング3位。尾崎紀世彦の『また逢う日まで』といえば、ザ・歌謡曲!ザ・70年代!ザ・レコード大賞!レコード大賞の番組内で必ずといって良いほど、懐かしの過去映像コーナーで流される。まさにレコ大と視聴者との蜜月期を体現しているかのような楽曲ではないだろうか。
1972年
大賞 『喝采』ちあきなおみ
オリコンシングル年間売上ランキング1972年
順位 CDタイトル アーティスト 発売日 年間売上(万枚)
1 女のみち 宮史郎とぴんからトリオ 1972/05/10 138.2
2 瀬戸の花嫁 小柳ルミ子 1972/04/10 69.4
3 さよならをするために ビリーバンバン 1972/02/10 66.7
4 旅の宿 よしだたくろう 1972/07/01 66.6
5 悪魔がにくい 平田隆夫とセルスターズ 1971/08/10 65.1
6 ひとりじゃないの 天地真理 1972/05/21 60.1
7 京のにわか雨 小柳ルミ子 1972/08/10 56.9
8 別れの朝 ペドロ&カプリシャス 1971/10/25 55.7
9 ちいさな恋 天地真理 1972/02/01 54.7
10 太陽がくれた季節 青い三角定規 1972/02/25 50.1
・大賞受賞曲の『喝采』は翌年の1973年年間ランキング4位で売上枚数62.6万枚。
なぜレコ大受賞曲が当年ではなく翌年の年間ランキング上位に入っているのか、ということは特に若い世代の疑問点かもしれない。
かつてレコ大にはそれなりの権威があり、受賞したことによって楽曲・歌手に箔が付き、その後の売上アップに大きな貢献をするという図式があった。
ただ、この年の受賞曲『喝采』に関しては、発売が1972年の9月10日と遅かったのも関係している。大方の予想では小柳ルミ子の『瀬戸の花嫁』が受賞する…ということだったらしいが、ちあきなおみの念やら魂やらが過剰に込められた『喝采』が猛追。その勢いは年末のレコ大発表まで衰えず逆転受賞となった、とのこと。
1973年
大賞 『夜空』五木ひろし
オリコンシングル年間売上ランキング1973年
順位 CDタイトル アーティスト 発売日 年間売上(万枚)
1 女のみち 宮史郎とぴんからトリオ 1972/05/10 181.1
2 女のねがい 宮史郎とぴんからトリオ 1972/12/25 83.9
3 学生街の喫茶店 ガロ 1972/06/20 76.2
4 喝采 ちあきなおみ 1972/09/10 62.6
5 危険なふたり 沢田研二 1973/04/21 61.8
6 神田川 かぐや姫 1973/09/20 57.9
7 心の旅 チューリップ 1973/04/20 50.7
8 恋する夏の日 天地真理 1973/07/01 50.1
9 若葉のささやき 天地真理 1973/03/21 48.1
10 赤い風船 浅田美代子 1973/04/21 48.0
・大賞受賞曲の『夜空』は翌年の1974年年間ランキング19位で売上枚数38.1万枚。
前年のちあきなおみに続いて、五木ひろしの『夜空』も翌年の年間ランキング上位に入っている。ただ、五木ひろしの場合は『喝采』で大賞受賞を成し遂げたちあきなおみのケースとは若干事情が異なる。
五木ひろし本人の述懐によると、歌謡大賞を沢田研二の『危険なふたり』が取ったので、レコード会社が急きょレコ大に向けて勝負曲を「夜空」に切り替えたためだという。
勝負曲をどうするかはもちろん自由だが、賞レースへの姿勢が段々と作為的・不自然になりつつある気がする。
1974年
大賞 『襟裳岬』森進一
オリコンシングル年間売上ランキング1974年
順位 CDタイトル アーティスト 発売日 年間売上(万枚)
1 なみだの操 殿さまキングス 1973/11/05 193.6
2 あなた 小坂明子 1973/12/21 164.9
3 うそ 中条きよし 1974/01/25 150.0
4 ふれあい 中村雅俊 1974/07/01 117.7
5 恋のダイヤル6700 フィンガー5 1973/12/05 83.7
6 夫婦鏡 殿さまキングス 1974/05/25 79.4
7 くちなしの花 渡哲也 1973/08/21 77.4
8 激しい恋 西城秀樹 1974/05/25 58.3
9 積木の部屋 布施明 1974/03/10 55.3
10 学園天国 フィンガー5 1974/03/05 54.0
・大賞受賞曲の『襟裳岬』は年間ランキング31位で売上枚数30.9万枚。
五木ひろしの次は森進一。よくできた流れだ。それはともかく、『襟裳岬』は年間ランキング31位とやや低めの順位ではあるが、今でも広く歌い継がれている。許容範囲と思われる。
1975年
大賞 『シクラメンのかほり』布施明
オリコンシングル年間売上ランキング1975年
順位 CDタイトル アーティスト 発売日 年間売上(万枚)
1 昭和枯れすゝき さくらと一郎 1974/07/21 99.4
2 シクラメンのかほり 布施明 1975/04/10 87.8
3 想い出まくら 小坂恭子 1975/05/25 79.4
4 時の過ぎゆくままに 沢田研二 1975/08/21 79.1
5 港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ /カッコマン・ブギ ダウン・タウン・ブギウギ・バンド 1975/04/20 77.6
6 ロマンス 岩崎宏美 1975/07/25 77.1
7 22才の別れ 風 1975/02/05 70.7
8 心のこり 細川たかし 1975/04/01 70.7
9 我が良き友よ かまやつひろし 1975/02/05 70.0
10 冬の色 山口百恵 1974/12/10 52.9
タキシード姿が似合う布施明もこの時代はアコースティックギターをかき鳴らしながら歌うフォークシンガー然とした若者。年間ランキング2位で大衆性に関して何ら問題はない。
1976年
大賞 『北の宿から』都はるみ
オリコンシングル年間売上ランキング1976年
順位 CDタイトル アーティスト 発売日 年間売上(万枚)
1 およげ!たいやきくん 子門真人 1975/12/25 453.6
2 ビューティフル・サンデー ダニエル・ブーン 1976/03/10 190.9
3 北の宿から 都はるみ 1975/12/01 87.6
4 木綿のハンカチーフ 太田裕美 1975/12/21 86.7
5 岸壁の母 二葉百合子 1972/02/05 77.3
6 俺たちの旅 中村雅俊 1975/10/10 75.7
7 あなただけを あおい輝彦 1976/06/25 72.2
8 横須賀ストーリー 山口百恵 1976/06/21 65.3
9 わかって下さい 因幡晃 1976/02/05 61.4
10 あの日にかえりたい 荒井由実 1975/10/05 53.9
今も破られていない、そして今後も破られることはないであろうシングル売上を誇る『およげ!たいやきくん』や世界中でチャートインした『ビューティフル・サンデー』といった超弩級メガヒット2曲の次に売れた都はるみ『北の宿から』が受賞。
『およげ!たいやきくん』を歌った子門真人は本業が会社員であり、純然たるプロ歌手ではない。そしてこの時代は、子ども向けの楽曲が大賞を獲得するのは難しかったのではないか。ダニエル・ブーンの『ビューティフル・サンデー』について言及すると、レコード大賞は日本の楽曲でないと受賞対象にならないという決まり事(外国曲を日本人がカバーしたものも駄目)が現在に至るまで続いているので当然レコ大とは1ミリも縁はなかった。
1977年
大賞 『勝手にしやがれ』沢田研二
オリコンシングル年間売上ランキング1977年
順位 CDタイトル アーティスト 発売日 年間売上(万枚)
1 渚のシンドバッド ピンク・レディー 1977/06/10 94.0
2 青春時代 森田公一とトップギャラン 1976/08/21 86.5
3 ウォンテッド ピンク・レディー 1977/09/05 84.5
4 勝手にしやがれ 沢田研二 1977/05/21 74.7
5 昔の名前で出ています 小林旭 1975/01/25 70.8
6 雨やどり さだまさし 1977/03/10 66.8
7 カルメン'77 ピンク・レディー 1977/03/10 65.8
8 S・O・S ピンク・レディー 1976/11/25 64.6
9 失恋レストラン 清水健太郎 1976/11/21 62.8
10 フィーリング ハイ・ファイ・セット 1976/12/01 56.6
沢田研二『勝手にしやがれ』は年間ランキング4位。文句なしの大衆性による受賞。この曲もザ・70年代、ザ・歌謡曲、ザ・レコード大賞…といった風情を感じる。
ちなみにレコード大賞史上最高の視聴率を記録したのがこの年であり、まさに歌謡曲黄金期。次年度からは少しずつだが確実に視聴者離れが進んでいくことになる…。
1978年
大賞 『UFO』ピンク・レディー
オリコンシングル年間売上ランキング1978年
順位 CDタイトル アーティスト 発売日 年間売上(万枚)
1 UFO ピンク・レディー 1977/12/05 155.3
2 サウスポー ピンク・レディー 1978/03/25 146.0
3 モンスター ピンク・レディー 1978/06/25 110.2
4 君のひとみは10000ボルト 堀内孝雄 1978/08/05 91.9
5 微笑がえし キャンディーズ 1978/02/25 82.9
6 透明人間 ピンク・レディー 1978/09/09 79.9
7 カナダからの手紙 平尾昌晃・畑中葉子 1978/01/10 69.9
8 Mr.サマータイム サーカス 1978/03/25 65.2
9 時間よ止まれ 矢沢永吉 1978/03/21 63.9
10 わかれうた 中島みゆき 1977/09/10 62.7
この年は降参するしかない。ピンク・レディーに。
年間ランキング1位から3位までを独占。猛威を振るうピンク・レディーブームは大衆性マックスで1978年を駆け抜け、レコード大賞を余裕でかっさらっていった。
なお、年間売上ランキング1位の曲がレコード大賞を受賞するのはこれが初めてのことだ。
1979年
大賞 『魅せられて』ジュディ・オング
オリコンシングル年間売上ランキング1979年
順位 CDタイトル アーティスト 発売日 年間売上(万枚)
1 夢追い酒 渥美二郎 1978/02/25 145.4
2 魅せられて ジュディ・オング 1979/02/25 102.0
3 おもいで酒 小林幸子 1979/01/25 99.7
4 関白宣言 さだまさし 1979/07/10 99.0
5 北国の春 千昌夫 1977/04/05 85.7
6 ガンダーラ ゴダイゴ 1978/10/01 82.0
7 YOUNG MAN 西城秀樹 1979/02/21 80.7
8 チャンピオン アリス 1978/12/05 78.0
9 みちづれ 牧村三枝子 1978/10/21 74.2
10 カメレオン・アーミー ピンク・レディー 1978/12/05 70.7
この年のレコード大賞に関しては興味深いエピソードがある。
ジュディ・オングが所属するレコード会社社長が「今年は絶対にジュディ・オングの曲をレコード大賞にする」と宣言したという。作詞は阿木耀子、作曲は筒美京平という超一流の売れっ子・仕事人。加えて社を挙げての大キャンペーンを展開し、見事に『魅せられて』は年間ランキング2位の大ヒット曲となった。そしてレコード会社社長の宣言どおりにレコ大受賞。
「良かったね!」と言いたいところだが、かなり作為的・人為じみたことをやったな…と思わずにはいられない。
まとめ
ここまで、1968年から1979年までのレコード大賞と大衆性(年間売上ランキング)の関係について大まかに見てきました。
多少疑問点が残る年があるにはあった…。しかし総体的に、この時代はまだギリギリというかそこそこに健全な審査がなされていたとは思います。
当然インターネット・SNSの普及などまったくなかった頃なので、裏で良くないやり取りがあったとしても明るみになりづらかったことは否定できませんが。
さて、次回は1980年代のレコード大賞受賞曲と大衆性(年間ランキング)の関係を見ていきたいと思います。どんなものであれ長く続くと腐っていく、という事例が出てきそうで怖くも楽しみですね…!