こんにちは。前健です。
ひとくちに「隠居」といっても、そんなことをする人間は何者ぞ?といった一種の恐怖や気色悪さを持つ人が多いかもしれません。
そこで今回は、私がいろいろ頑張って調べて、少しだけ考えた結果をお送りします。
隠居生活を送るにあたって何らかの資格が必要なのかどうかも考えていきます。
「隠居」の意味
各種の辞書で調べてみた
まず、何事も言葉の定義を知るには辞書で調べるのが一番です。
ネット検索でも苦労なく何でも調べられる時代ですが、やはり専門家が執筆した辞書を出版社が責任持って販売している事実は重たいです。
しかし、その結果をネットで発表する私は何なんだろうか?と一瞬考えましたが、細かいことはさておき…。
『大辞林』によれば
【隠居】
①勤め・事業などの公の仕事を退いてのんびりと暮らすこと。また、その人。
③「隠居差控」の略。
④世俗を逃れて山野などに閑居(かんきょ)すること。
『大辞林』第四版より引用
①は人々のイメージ通りっぽい。
②もだいたい分かりますよね。
落語の「横町のご隠居さん」イメージですね。あるいは水戸黄門とか。
③は説明が必要かもしれません。
「いんきょさしひかえ」と読みまして、江戸時代の刑罰の一種。
武士などが家禄を子孫に譲り、仕事を退かされて、自邸に謹慎させられるというものです。
④がまさに、このサイトで扱う隠居の定義だと思います。
世俗から逃れて…山野などに閑居…。
ん?山野などに?
街の中に住んでいる人間には隠居する資格などないのか??と焦る人がいるかもしれませんが、ご安心ください。
後できちんと説明します。
『新明解国語辞典』によれば
【隠居】
仕事や生計の責任者であることをやめ、好きな事をして暮らすこと(人)。〔狭義では、(定年後の)老人を指す〕
『新明解国語辞典』第七版より引用
大変シンプルですが、しっかり核心はついていますね。
『明鏡国語辞典』によれば
【隠居】
勤めをやめたり家督をゆずったりして気ままに暮らすこと。また、その人。
単に、仕事から離れた老人の意でも使う。
『明鏡国語辞典』第二版より引用
この解釈は間違ってはいないはずですが、若干引っかかる。言葉の意味を説明する苦労がしのばれます。
『ブリタニカ国際大百科事典』によれば
【隠居】
本来の意味は官職を退いて自宅に籠居(ろうきょ)すること。
言葉は平安時代からあったが、戸主が生存中に家督、財産を相続人に譲渡することを隠居と称するのは室町時代に始まり、鎌倉時代に法制上の問題となった。
江戸時代の武士の隠居には願い出によるものと刑罰によるものとがあったが、前者には老衰(70歳以上)と病気との2種の理由が認められた。
明治民法においては、生きているうちに戸主権を家督相続人のために放棄する行為を隠居とし、戸主が満60歳以上であること、および相続人をあらかじめ承認しておくことが規定されていた。
こうした法律で規定されたような隠居とは別に、広く行われてきた。隠居制による家族形態も一般的である。
『ブリタニカ国際大百科事典』より引用
さすがは百科事典だけあって歴史的背景も詳説されています。
それにしれも江戸時代、武士は病気でなければ70歳まで働かなければならなかったんですね。ちょっと大変ですね…意外!
『ジーニアス和英辞典』によれば
【隠居】
[世間から身を引くこと]
retirement
[隠居する]
retire
『ジーニアス和英辞典』第五版より引用
なんともそっけない…ただ「リタイア」という言葉しか出てこないという…。
ちなみにいま話題沸騰中の「FIRE」は少し、いや、だいぶ違うと思います。
『ウィズダム和英辞典』によれば
【隠居】
(a) retirement; (人)a retired person.
『ウィズダム和英辞典』より引用
こちらも似たようなものです。
しかし、手元の新潮文庫シェイクスピア作品を開くと、シェイクスピアのプロフィールに「47歳で突如隠退、余生を故郷で送った」とあります。
言葉の問題はともかく、欧米でも隠居というライフスタイルは遙か昔から確実に存在していたようです。
『日本語大シソーラス』によれば
【隠居】の類義語
不活発→不活性・不活性化・不活動・ぬるま湯につかる・消沈・滞る・沈滞 など
篭(こも)る→隠る・引きこもる・閉じこもる・立てこもる・くすぶる・埋もれる・蟄居(ちっきょ)・閉居・閑居 など
世間に出ない→世に出ない・人中に出ない・人と交わらない・世間と交わらない・世間との交わりを絶つ・世を逃れる・世を捨てる など
脱俗(世渡り下手)→遁世(とんせい)・出俗・出世間・出家・超俗・絶俗・俗を絶つ・孤絶・浮世離れ・現実離れ・時代離れ・世を逃れる・世を捨てる・世にそむく・隠れ住む・埋もれる・庵を結ぶ・人外(じんがい)・世をはかなむ・時流に合わない・時代に合わない・狂せるに似たり・霞を食う・山林に交わる・石に枕し流れに漱(くちそそ)ぐ・漂泊・放浪・浮き草・根なし草・デラシネ・ヒッピー・風月を友とする・隠者 など
閑居→侘び住まい・隠棲・草隠れ・世を隠れる・隠れ住む・幽居・幽棲・閉居・蟄居・侘び人 など
囚人→囚われ人・罪囚(ざいしゅう)・服役者・刑人・牢人・罪人・人質 など
辞任→引退・隠退・退居・退老・身を引く・辞める・止(よ)す・降りる・下野(げや)・野に下る・一線を退く・第一線を離れる・戦線離脱・暇を取る・暇(いとま)を乞う・暇をもらう・舞台を去る ほか
『日本語大シソーラス』より
マイナス志向な言葉が多すぎ!!
しかし、これだけネガティブな存在とされる隠居…かなり背徳的な魅力を感じてきませんか…??
現代の「隠居」の定義
高度に複雑化した現代社会において「隠居」という言葉を再定義するのは難しいですね。
まさに人それぞれといった状況かと思います。
私としては「暴走する承認欲求を抑え、暴走する承認欲求にとりつかれた人々から距離を置き、先端文明からも距離を置き、可能な限り一人の時間を大事にする引きこもりっぽいけど身も心も自由な状態(またはそういう人)」としたいですね。
隠居生活を送る資格
昔は厳しかったけど
かつては刑罰としての結果であったり、年齢的にもうるさい感じだった隠居。
そうはいっても、もちろん遠い昔から素晴らしい隠居生活を送った人が多いのもまた事実。
禅の教えでは、隠居・隠遁とは日本人の理想とする最も美しい生活だと言われています。
西行や良寬といった名僧などが有名ですよね。
いわば彼らは、先ほど述べた「山野などに閑居」のスタイル。
鳥の声や水の音を聞きながら静かに書物を読む・酒をひとり飲みながら、杯に映った月を眺める・近くに動物がやってくれば一緒に遊ぶ・常に自由な心で、あるがままに生きる、という生活を理想にしてきました。
まさにこれ古来からの隠居形態「山中の山居」。
しかし、街の中に住んでいる多くの人々からすれば難易度が高すぎですよね。
そんな多くの皆さんに朗報ですよ!
時代が下って安土桃山時代の千利休が「市中の山居」という概念を提唱しました!
あわただしい街なかにいながらも山居の状態を作る!
母屋から離れた場所に茶室を作ろう、という意味です。
さすがは時の権力者に仕えた利休。大変合理主義でよろしいですね。
現代に生きる私たちは、茶室をわざわざ作る必要さえないかと(余裕がある人は作ればよろしい)。
とにかく煩わしい人間関係から離れてひとり自由に過ごせる環境を持てば、あなたも立派な隠居人ですよ!
まとめ・現代の隠居生活者は気楽にいこう
隠居というとどうにも「ショボい」「暗い」「不景気」といったマイナスの感情・言葉が先に出てくる人が多数派でしょう。
しかし、現代社会に生きる我々は、もっと軽やかに隠居生活を送ってもいいのではないかと思います。
厳しい修行めいたことをする必要もありません。
一番大事なのは心のありようです。
当然ながら誰でも隠居する資格はあるし(公共の福祉に反しない限りは)、誰かに文句を言われる筋もありません。
興味を持たれた方は、下の記事で私の隠居生活を覗いてみてはいかがでしょうか?